さくらインターネット研究所、所属研究員が「山下記念研究賞」を受賞

2021年4月6日

 さくらインターネット株式会社の組織内研究所であるさくらインターネット研究所に所属する研究員の坪内 佑樹が発表した論文「Transtracer: 分散システムにおけるTCP/UDP通信の終端点の監視によるプロセス間依存関係の自動追跡」が、一般社団法人情報処理学会が表彰する2020年度「山下記念研究賞」を受賞しました。

「山下記念研究賞」を受賞した発表者の坪内 佑樹

 本論文は、Linuxのネットワークソケットを監視することにより、クラウド上の複雑な分散アプリケーション内のネットワーク通信の依存関係を網羅的に追跡可能なアーキテクチャを提案するものです。本提案により、アプリケーションがLinuxカーネルのTCP/UDP通信機構を利用する限り、依存関係を見逃さずに追跡できます。現在は、本提案による監視システムについて、導入のボトルネックを低減させるために、監視処理に要するオーバーヘッドを極限まで小さくする研究を進めています。
 今回の賞は、情報処理学会の研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから、本論文が特に優秀と認められ受賞に至りました。

 

 さくらインターネット研究所は、次世代のデジタル技術を研究し、自社の事業に留まらず、広く社会にデジタルを通して貢献していくために設立されました。クラウドコンピューティングや次世代インターネットプロトコルの技術開発を始めとした研究開発を行っております。
 今後も有用で新しいデジタル技術を実現し、社会のDXを加速するための研究開発に努めてまいります。

受賞した論文について

■タイトル
 Transtracer: 分散システムにおけるTCP/UDP通信の終端点の監視によるプロセス間依存関係の自動追跡

■著者
 坪内 佑樹(さくらインターネット株式会社)、古川 雅大(株式会社はてな)、松本 亮介(さくらインターネット株式会社)

■論文(カメラレディ版)
 https://yuuk.io/papers/transtracer_iots2019.pdf

■概要
 Webサービスの利用者による多様な要求に応えるために、Webサービスを構成する分散システムが複雑化しています。その結果、システム管理者が分散システム内のプロセス間の依存関係を把握することが難しくなっています。そのような状況では、システムを変更するときに、変更の影響範囲を特定できず、想定よりも大きな障害につながることがあります。そこで、システム管理者にとって未知のプロセス間の依存関係を自動で追跡することが重要です。先行手法は、ネットワーク接続を終端するホスト上でLinuxのパケットフィルタを利用してトランスポート接続を検知することにより依存関係を発見します。しかし、Linuxカーネル内のパケット処理に追加の処理を加えることになるため、アプリケーションの通信に追加の遅延を与えることになります。そこで、本論文では、サーバー用途で広く利用されているLinuxを前提に、TCP/UDP接続の終端点であるネットワークソケットに含まれる接続情報を監視することにより、未知のプロセス間の依存関係を網羅的に追跡可能なアーキテクチャを提案します。このアーキテクチャにより、プロセスがLinuxカーネルのTCP/UDP通信機構を利用する限り、未知のプロセスの依存を見逃さずに追跡できます。また、接続情報の監視処理は、ソケットがすでに保持する接続情報を読み取るだけとなり、アプリケーションの通信処理とは独立するため、アプリケーションの通信遅延に影響を与えません。最後に、先行手法との比較実験を行い、応答遅延オーバーヘッドとリソース負荷を評価した結果、応答遅延オーバーヘッドを13-20%、リソース負荷を43.5%低減させていることを確認しました。

■情報処理学会「インターネットと運用技術研究会」より「山下記念研究賞」への推薦理由
 利用者の多様な要求に応えるため複雑化したWebサービスを管理する際、分散システム内のプロセス間依存関係を把握するのは難しく、未知のプロセス間の依存関係を自動追跡できることが重要となります。本論文では、Linuxのネットワークソケットに含まれる接続情報を監視することで未知のプロセス間依存関係を網羅的に追跡可能なアーキテクチャを提案し、先行手法と比較して応答遅延オーバーヘッドを13-20%、リソース負荷を43.5%低減させています。着眼点のユニークさとその実装の性能の高さは注目に値し、シンポジウムでも好評を博した発表であるため、山下賞候補として推薦いたします。

 

受賞者のプロフィール


 Site Reliability Engineering(SRE)に関する研究開発を担当。クラウドコンピューティングにおける大規模な分散システムの開発・運用技術に興味を持つ。ウェブ上では、yuuki, yuuk1, yuuk1tなどのIDで活動している。
 2013年12月よりWebサービス事業者にてWebオペレーションエンジニアおよびSREとして従事し、2019年2月より現職。2020年4月より京都大学大学院情報学研究科博士後期課程へ進学。
坪内個人のGitHub: https://github.com/yuuki
坪内個人のTwitter:https://twitter.com/yuuk1t

山下記念研究賞について

 山下記念研究賞は、研究賞として本会の研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な論文を選び、その発表者に贈られていたものですが、故山下英男先生のご遺族から学会にご寄贈いただいた資金を活用するため、平成6年度から研究賞を充実させ、山下記念研究賞としたものです。